VUTAIは木造のプロジェクト。そのパートナーとして伴走してくださった森本達郎氏(森庄銘木産業株式会社/以降、森庄銘木)。木材伐り出しの舞台裏や、山と暮らしの新たな関係性を紡ぐ仕事への想いを伺いました。
― 類設計室との出会いは?
類設計室さんとの出会いは、宇陀市のまちづくりを考えるコンソーシアム(プラットフォーム)で、農園事業部の方とお会いしたのがきっかけでした。その中で、奈良農園のプロジェクトがあること、どうやら山をもっているらしいこと、をお話いただきました。具体的に伺ってみると、榛原の自明(じみょう)という場所に山を持たれており、道も近く、接道条件は抜群に良かったのですが、林道は全くない状態。そこで、0から道を設計してどう間伐を組み立てるか、工夫を凝らしました。

― 宇陀の木材の特徴や魅力、この森を最初に見たときの印象をお聞かせください。
宇陀は奈良県の東部エリアで、林業技術としては吉野林業の技術を色濃く汲んでいるエリアになります。吉野林業の技術は、主に次の3つが特徴です。密植・長伐期・多間伐といって、密植は最初にたくさんの苗を密に植えて育てること。長伐期は一つの山を育てる時間軸が長く、100年、150年と続くように林業を組み立てること。多間伐は長い期間育てる中で、木にストレスがないように、たくさん間伐をしてゆっくり大きく育てていくことです。
この山も昔は密植され、途中間伐しながら約60年経っています。吉野林業の技術を踏襲しているため手入れもしっかりなされた山なので、木の品質として年輪がきめ細やかで、昔に枝打ちがされているのが特徴です。根元から末まで20メートルから25メートル程度ある中で、枝打ちをしている元玉(根元付近)は節がないような良質な材も多く採れる、宇陀市の良い特徴をくんだ山だと思います。
― 400本の木を伐りだした中で、特に印象に残っていることは?
この山はもともと田んぼだった場所のようで、とにかく土壌が柔らかく、水をたっぷりと蓄える「保水力」のあるエリアでした。そのため、短期間で木を切り出すための「道づくり」には一番頭を悩ませましたね。
やり方を一歩間違えると、雨が降るたびに土砂が流出してしまいますし、何より水分を含んだ土に重機がどんどん沈んでいってしまうんです。間伐そのものよりも、それまでの準備過程が本当に大変でした。
実際、作業中も、大雨が降ると3日くらい水が抜けるのを待たなければ全く仕事になりませんでしたし、山の中で機械が動かなくなりかけることも。そういった苦労は印象に残っています。


― 今後、奈良農園の施設がどうなることを期待していますか?
私たちは今、類設計室さんの「山守(やまもり)」をさせていただいていますが、山を育てるというのは「世代を超えたリレー」です。私は森庄銘木の4代目ですが、この山も、山主さんが残してくださったものが今の山の姿。今ある山の姿は、過去から引き継がれたバトンそのものなんです。

山主さん自身の山から採れた木を、自分たちのプロジェクトの建物に使う。これは、山にとってこれ以上ないほど幸せなことです。
昔の日本では、自分の山の木で家を建てたりお寺を修繕するのに寄付する文化が全国にありましたが、ここ20〜30年で暮らしと木との距離がすっかり遠くなり、そうした繋がりが希薄になってしまいました。
今回の「純木造」の施設は、まさにその原点に立ち返る取り組みです。この施設を拠点に、山との関わり方が様々な形で発信され、10年後にまた「この山をどうしていこうか」という会話が生まれるような未来を期待しています。
― 森庄銘木さんで代々受け継がれている「大事にされていること」を教えてください。
森庄銘木として山に向き合う中で、最も大切にしているのは森と暮らしを繋ぐ「社会的な責任」です。林業は究極のメーカーだと考えており、私たちの仕事は地域の方々の暮らしと直結しています。
例えば、道を一つつくるにしても、手抜きをすれば雨のたびに土が流れて土地が痩せてしまいますし、下流に住む方々の災害リスクを高めてしまいます。また、宇陀のような里山エリアでは、田植えや稲刈りの時期に重機やトラックが頻繁に行き来すると、農家さんの営みの邪魔になってしまいます。そうした、地域で暮らす方々への細やかな「気遣い」が大前提にあります。
その上で、具体的に「山を育てる」において大切なのは「光・風・水」のバランスです。
山は良くも悪くも鈍感なので、10年くらい放置しても一気に枯れることはありません。しかし、それが20年、30年と重なると、いま社会問題になっている「放置林」になり、倒木や土砂崩れを引き起こす危険な山になってしまいます。
人間が愛情をかけて「光・風・水」の要素を大切にし、それがそろうと植物が元気に育ってくれる。山守の立場としては、この最低限の良い環境をキープしながら、長い年月をかけて健やかに木を育てていくことを、代々変わらず大切にしています。
― 林業の担い手の育成や、宇陀の地域のこれからについてのお考えをお聞かせください。
林業を通して宇陀という地域を盛り上げたい、という強い思いがあります。宇陀は人工林が非常に多いエリアですが、実はその中で適切に管理できている割合はまだまだ少ないのが現状です。だからこそ、良質な木を育てる技術を次の世代へ繋いでいく必要があります。
今回の類設計室さんとのプロジェクトは、普段は山と接点のない「事業主であり設計者」という方々が、山の中に深くかかわってくださいました。
林業は短時間で体験できるものではなく、僕たちがどんな思いや技術で山を守っているのかを「言語化」する時間は意外と少ない。その中で、こういう時間を共にでき、山の林業の技術を言葉にして繋ぐという機会になり、とても大切な時間でした。
今後は、この取り組みを横に広げながら、宇陀で林業に関わる若い世代を増やしていきたいですね。ただ木を伐るだけでなく、「こういう建築に使われるから、こういう育て方をしよう」「だからこういう林業をしよう」と、木が建物として歩む“第二の人生”まで見据えられるような、一歩先を見ることのできる“林業にかかわる人”を増やしていきたい。

それを伝えていくのが僕たちの使命ですし、類設計室さんともせっかくこういったご縁をいただきましたので、これからの新しいチャレンジを志す若い世代を一緒に応援できるような、そんな場づくり・山づくりを共に進めていけたら嬉しいです。