VUTAIの設計は、運営企業である株式会社類設計室が手掛けました。そのプロジェクトを推進した設計事業部ディレクターの小林有吾氏(兼 農園事業部事業部長)に、VUTAIが生まれた背景や設計のこだわり、そして共創の展望についてインタビューしました。

― なぜVUTAIをつくったのですか?

一つは施設の老朽化ですね。もともと10年ほど前に譲り受けた土地と建物なのですが、築年数で言うと40、50年ぐらいになります。ちょうど農業の体制を強化して機能も強化していこうというタイミングが重なり、まずこの施設の更新をしていくというのが1つです。

もう一つは、教育事業部との連携、共創です。もともと教育事業部の子どもたちが、定期的に農業をしに来て、その中で協調性や考える力を学んでいく農業カリキュラムがありました。それを拡大させていきたいという思いがありました。また、自然体験の合宿もいろいろな場所でやっています。それもここVUTAIで実施できないかと。

さらに、20年ほど前に福井県の若狭町で、行政と連携して就農定住事業に取り組んだのですが、ゆくゆくはここでもそれを実現していきたいという思いもありました。

― 「農と学びの共創拠点」というコンセプトが生まれた背景は?

振り返ると、「農と学び」というのは初めからやはりあったと思います。僕らの会社自身が教育事業部を持っていて、農園事業部もある。農業カリキュラムも自然体験の合宿も、今までやってきたことなんです。それを捉え直し、類設計室全体の「共創経営」という方針が合わさって、言葉化されたのが「農と学びの共創拠点」だったのかなと思います。 

そうやって言葉が固定されると、いろいろな発想が生まれてくるんです。もともとのスタートは、自社活用でしたが、それが「いろいろな学校さんにも来てほしいよね」という話になり、農と教育なら「企業さんの研修にも使えるよね」と、そういう形でどんどん広がっていきました。

共創経営の中で、5業態ーとくに今回で言うと、農業の拠点があって、設計が建物をつくり、そこに教育事業部が一緒になってやるというのは、非常におもしろいなと。

設計を進め、運営チームが入ってきて検討を重ねる中で、その内容や醍醐味がだんだんと固まっていきました。

― 伝統工法を取り入れたのはなぜですか?

これも教育事業部との共創が大きな視点になっています。

教育事業部では、今、設計事業部と組んで「こども建築塾」を実施しています。その「生きた学びの場」にしようという視点でこのプロジェクトを作ってきました。その一番のポイントが、広間の伝統工法で作られた本物の空間です。子どもたちが感動を得て、ものづくりへの興味をどんどん培ってほしいという思いで、みんなが集まる施設の中心に伝統工法を取り入れました。宮大工の西嶋棟梁にお願いすれば、つくる過程もできた後も、最高の教材になると考えたからです。

― 自社の山の木を活かしたきっかけは?

自社の山の木を使ったのも、教育視点で、山から切り出すところから木造建築を作るということ自体を、1つの生きた学びのプロセスにしたいと考えたからです。そしてせっかくイチから作るなら自分たちの山で育った木を使って建物を建てたいと。

宇陀市は杉と檜の産地なので地元の木を使いたいという思いもありました。木造で全体をつくって、棟梁が手掛ける広間を中心に、同じような世界観で建物が連続する施設にしたかったのです。

初めてのチャレンジの中、偶然、森庄銘木産業さまと出会うことができました。ディスカッションを重ね、森の診断から最後のつくるところまで一緒に伴走していただきました。

建築的には材料の地産地消、私たちは「自産自消(じさんじしょう)」と呼んでいますが、木造によって炭素を固定して温暖化を防ぐという、社会に役立つ建築を実現したいという思いもありました。

― 設計におけるこだわりと工夫を教えてください

一番は外観デザインです。山に囲まれた場所なので、その風景に溶け込む建築を目指し、切妻の屋根が連続するような分棟式の建築にしています。存在感のある広間を際立たせつつも、全体的に調和させ一体感を持たせています。山並みと屋根並みが繋がっていくようなところがこだわりです。

インテリアは、棟梁の伝統建築から、自分たちの山の木を製材した杉、さらには一般的に使われる構造用合板まで、ここに来たらさまざまな木の使い方を体感し、学べるように工夫をしています。

空間的な視点では、この施設は農業の生産拠点であり、地域の方が毎朝野菜を持ってきてくださる流通拠点であり、宿泊施設でもあり、人が集まる共創拠点でもあります。いろいろな機能が一つに集まっているのが特徴です。

なので、全体としての一体感を持ちながらも、日常使う人が異なるため、セキュリティも含めてうまく分けられる空間にしたいと考えました。そこで、平屋で水平的に繋がる分棟式にしつつ、それぞれをゾーニングしながら、真ん中に「結い土間(通り庭)」と名づけた幅約4.5メートルの空間を大きく作りました。全体を繋げることで、「分けながらつなげる」空間ができたと思っています。

そして、農は食でもあるということで、あえて施設全体の真ん中にキッチン空間を配置しました。通常、厨房などは端の見えないところに置きがちですが、食を中心にしていろいろな交流やコミュニケーション、共創が始まってくれたらいいなという思いを込めています。

さらに技術的なことに触れると、伝統建築と現代の法的基準を両立させることは、非常に難しく苦労しました。また、木のチップを使った断熱材や、井戸の水を使った空調システムなど、極力自然のエネルギーを活用することにもこだわっています。

― VUTAIの可能性と今後の展望は?

このプロジェクトを通じて、宇陀市さんや地域の方と一気に距離が縮まり、僕たちがここ宇陀で本気でいろいろなことに取り組もうとしていることを感じてもらえる、大きなきっかけを得たと感じています。できる前からいろいろな方を結びつける施設になっていることが、まず大きな可能性だと思っています。

宇陀という場所は調べれば調べるほど非常におもしろい場所で、私たちは「はじまりの地」と呼んでいます。万葉集で詠まれた「阿紀(あき)」であったり、少し東へ行くと古くから続く自然信仰・山岳信仰が残る室生寺があったり。宇陀の魅力を再発見し、皆さんと共有して、そこから新しいものが始まっていくような場所にできるのではないかという可能性を感じています。

今後は、共創拠点として多くの人が集まる場所にしていきたいと思っています。とくに、生産と流通の現場の中に宿泊機能があるというのは、独自の魅力があります。通常では交わらない方たちがここで交わって、化学反応を起こしていく場所にしたい。

外と中の交流によって循環が生まれ、生産者さんが元気になるような好循環を生みたいですし、「宇陀市で農業をやったらおもしろそうだな」という人が現れて新しい担い手に繋がっていくような場所にしたいです。

教育の場面でも、今、宇陀市さんはソーシャルアントレプレナーシップ教育に力を入れており、私たちの教育プログラム「こども起業塾」などとも非常にマッチするので、ここから新しい学びが生まれてくるような、そんなおもしろい施設にしていきたいと思っています。