2026年4月11日に、グランドオープンを迎えた宇陀イノベーションセンター「VUTAI」。当日は、VUTAIを象徴する大広間の設計・施工を指揮した西嶋工務店・西嶋 靖尚氏、植栽のランドスケープデザインを手がけたプラントハンター西畠 清順氏、コメンテーターに諏訪 雄一氏をお招きして特別対談を実施しました。宮大工とプラントハンター。それぞれの匠がどのようにVUTAIらしさを捉え、表現したのか。対談の中では、異なる専門領域を越えた共通点が次々と浮かび上がり、活発な意見交換が行われました。

登壇者:
西嶋 靖尚 氏(宮大工大都流 三十二代目当主、株式会社西嶋工務店 代表取締役)
西畠 清順 氏(そら植物園株式会社 代表取締役、プラントハンター)
コメンテーター:
諏訪 雄一 氏(GREEN×EXPO 2027テーマ館・展示プラン担当、前株式会社NHKエンタープライズ専務取締役)
司会進行:
小林 有吾(株式会社類設計室 設計事業部 ディレクター/農園事業部 事業部長)
奈良の宇陀の地に、
深く根をおろすために。
小林:本プロジェクトの印象や、実際に宇陀を訪れてみた印象はいかがでしたか?
西嶋:最初に当時の阿部社長(現 特別顧問)からご連絡をいただき、「全国からさまざまな世代の人々が訪れ、いきいきとした生涯設計ができる場をつくってほしい」というお話をいただきました。具体的な要望は、大きな広間をつくるということだけ。あとは任せると。今回は西畠清順さんと一緒にプロジェクトに参加させていただきましたが、ご縁あってこの舞台に立たせていただいたと感じています。
宇陀の印象は、山々に囲まれて自然が大変豊かで、歴史が深いところであるということ。室生寺をはじめとした素晴らしい文化財があります。小さな祠も含めて40数ヶ所ぐるっと回らせていただいて、その感触を心の中に抱いて、設計をするに至りました。
西畠:ランドスケープも同様ですね。この宇陀という土地、もっというと環境設計全体を踏まえて、どのようにつくっていくと宇陀らしいか、VUTAIらしいか、類設計室さんらしいか。そこを考えてプランに落として、樹木に落として、自分なりに答えを導いていきました。
小林:宇陀らしさが設計に落とし込まれているところについて、具体的に教えてください。
西嶋:宇陀の歴史の中に溶け込ませるために、柱の太さや梁の高さといった、昔ながらの決まりごとに基づいてつくっています。気づかれた方もいるかもしれませんが、梁と桁の間に置かれる山形の部材「蛙股(かえるまた)」に、2か所ほど彫刻を施しました。奈良・キトラ古墳の壁画に描かれた四神のうち、朱雀と玄武を彫り込んだものです。この建物が宇陀・類農園の地でなければならないという証として。広間に入ると「安らぐ」「ほっとする」という声をよくいただきますが、それはやはり二神に守っていただいているからだと思っています。

諏訪:キトラ古墳の四神を彫刻に施すのは、宮大工の世界ではよくあることなのでしょうか?
西嶋:実は、ほとんどありません。今回は奈良の宇陀の地に根をおろすために、ゆかりのあるものを取り入れました。四神すべてを入れると空間として窮屈になるため、朱雀と玄武の二神に絞っています。お寺やお宮では虹梁(こうりょう)に彫刻をふんだんに入れるのですが、今回はあえてそれをしていません。宮大工として普段手がけるのは8〜9割が宗教建築ですが、この建物を宗教建築として成立させるのは違う。だから、あくまでさりげなくすることを意識しました。
西畠:僕自身、毎回建築家や設計事務所と仕事をするときに、どう建物のコンセプトや、周辺環境に寄り添っていくかは常に考えるんですけど。今回は他でもなく、自分で手を動かされている棟梁と、こうやってお手合わせをすることができて、非常にいい機会だったなと思っています。

樹齢200年を超える
欅とともに時を刻む。
諏訪:その時々の景観や場所に植物の形を合わせていく。現場合わせのすごみを、清順さんからは感じます。式典直前までバケツに並んでいた桜が、彼が来て5分でバッと活けると、生命のエネルギーが溢れる美しいフォルムになっていく。棟梁も、現場に入った印象によって修正することはありますか?
西嶋:ありますね。この大広間には丸柱が4本ありますが、もともとは山から8本の欅を切り出しました。直径が三尺、90センチ前後の欅を八角形、十六角形と製材し、最後に鉋(かんな)で丸く仕上げていくのですが、2〜3か月経つと、この子はダメだ、将来こう曲がりそうだ、というのが見えてくる。人間として、生き物として、感覚を研ぎ澄ませると、曲がる方向、割れる方向が分かるようになるんです。最終的に4本に絞ったのが今の柱です。まっすぐ立っているように見えますが、実は2〜3ミリずつ微妙に曲がってきている。その曲がる方向をすべて同じになるよう計算しています。20年、30年、50年後に見ていただければ、西嶋の言っていたことは正しかったなと分かっていただけると思います。

諏訪:この木はこっち、あの木はこっちとおっしゃいますけれど、お弟子さんが伸びていく方向も分かりますか?
西嶋:うちに入ってくるのは9割方、素人です。鑿(のみ)も鉋(かんな)も使ったことがない。茶髪だったり少々態度の大きな子もいます。まず、ノコギリを持たせて、木を切らせると、力があるので勢いよく切ろうとするのですが、真っ直ぐには切れない。ところが1年、2年、3年と経つにつれて、真っ直ぐ切れるようになってくると、不思議と頭も茶色から黒くなっています。現場現場で役を与え、自分が満足するまでやらせる。その辛抱を続けるうちに、真っ直ぐ切るとはどういうことかを、自分で自覚していく。そうして立派に育っていきます。
諏訪:類設計室さんがお持ちの宇陀の山から伐(切)り出した杉は、どのような部分で使われているのでしょう?
西嶋:宿泊棟や事務所棟には、類設計室さんがお持ちの木材が使われています。広間は日本国内から選りすぐった木材が使われています。丸柱は、青森の樹齢200年の欅です。200年経った木を伐採させてもらって、この地でこれから手入れをしてあげたら、200年以上、300年、400年と持つと思うんです。その木が育った時間の倍以上に、建てた後も育てるというのが、私たち宮大工の仕事です。
小林:本日は棟梁に道具もお持ちいただきましたので、ご説明いただけますか?
西嶋:三つの器と書いて「三器(さんき)」といいます。墨壷(すみつぼ)・指矩(さしがね)・釿(ちょうな)の三つ。見ていただくと「水」という字になっています。大事な行事のときに神仏にお供えするのがこの三器です。なぜ水かというと、この建物の木も、水があってこそ育つ。大工にとって水は根本なのです。もうひとつ、木を伐るということは、いったん生命を絶つことです。育っている木の命を削らしてもらうわけです。それは大きな穢れでもある。穢れを持った人間が仕事をするわけにはいかないので、水を神さまにお供えして、気持ちよく作事をさせてくださいとお願いする。それが私たちの基本です。

諏訪:水というお話が出ましたけれど、清順さんの扱う植物も、まさに水や土、光が重要になってきますよね?
西畠:そうですね。棟梁のお話を聞いていて、おこがましいんですけれど、私が常に周りに言っていることと共通するところが多いですね。人間が作った人工物というものは、いつかは必ず壊れるんですよ。自然はどうかというと、これもまた壊れる。けれど再生するんです。それが劇的に違うところ。私たちは木を触っている。いつか壊れても再生する自然を相手に仕事をしている。そこが大きな共通点だと感じました。
みんなで育み、
つなぎまもる杜。
小林:植栽計画の全体像について、ぜひ清順さんにご説明をお願いしたいと思います。
西畠:コアゾーンの1つ目が、正面玄関を入って目の前の主庭です。奈良らしいアイコニックな場所にしたいと考え、古都奈良を代表する最古の形の枯山水をイメージしました。あえて違和感のあるように石を立てているのですが、昔の人はとてつもないエネルギーをかけて石を持ち上げて立てていた。天と地を石や木でつなぐということを、日本人は大切にしてきた。その精神を主庭に込めています。2つ目は果樹園。これはまだ植えたばかりで小さいんですが、原種にこだわっています。柘榴(ザクロ)や胡桃、山椒、棗(ナツメ)や山栗、花梨(カリン)なんかも、最新の品種ではなく、シルクロードを伝わって渡ってきた当時と同じものにしています。それから、「万葉の森」ですね。入ってくると真っ先に目に入るところに、万葉集に出てくる木々を集めた万葉の森をつくりました。全体のコンセプトとして考えていたのは、“つなぎまもる”ということです。農園や建物を緑が柔らかく繋いで、外からの目線をまもってくれているのに加えて、古都奈良に紐づいた発想で、古くからの木々を植えることで歴史も未来に繋いでいく。みんなで育み、つなぎ、まもる杜(もり)であることを大切にしています。

諏訪:棟梁は、200年300年先の話もしてくれましたが、清順さんにはこの先どんな景観が浮かんでいますか?
西畠:桜の時期は、皆さんにウキウキしてもらえると思います。実は今、桜の名所とされているころに植わっている桜は、江戸時代後期に流行ったソメイヨシノという品種を、戦後にどんどん植えていったもので、大体寿命が80年とされているんです。この先、日本各地から桜が減ってしまう時期が来ると思います。植え直せばいいという声もあるんですが、ほとんどの桜は連作を嫌う。なので、そう単純な話ではないんですね。ただ、VUTAIに関しては、桜も原種を植えているので、世代を超えて200年、300年と春に見事な花を咲かせてくれると思います。

小林:ここまでのお話で、棟梁と清順さん、共通点がいくつもあるように感じますが、おふたりはどのように感じていますか?
西嶋:私たち大工は水平と垂直、これがもう絶対に大事なんですが、清順さんも同じですよね。たとえば、このお花の生花もそう。この小さな壺の中にこれだけのものを入れるとひっくり返る。それを、たった10 分の間に清順さんが活けると、水平と垂直が整って、四方八方に美しさが出てくる。建物も樹木も、共通するところだと思いますね。
西畠:同感です。水平垂直を捉えるというのは、僕の流儀でいうと芯を捉えるという考えなんです。もう少し広い概念でいうと、ちゃんとその木を生かせる部分をつくっているということ。なんで水平垂直を人間が意識しなきゃいけないかというと、正体は重力だなと思うんです。重力は最も大きなエネルギーです。大工も庭師も、重力というものを感覚的に、あるいは理論的に分かりながら仕事してるっていうところが共通点だと思います。

生き様で伝える。
教えないという教え方。
対談の最後に、参加者の方からいただいた「教育についての考えを聞かせてほしい」という質問に対して、それぞれにコメントをいただきました。
西嶋:私のところは徒弟制度を敷いていて、朝から夜まで寮で生活します。寮費はすべて私が持ち、最低5年は寮生活をするという決まりです。18歳くらいで入ってきた子が、まずトイレの掃除をして、靴を揃えて、兄弟子や先輩方へ挨拶をする。たったこれだけを5年間続ける。それだけで人間は成長します。理屈で教えるのではなく、苦しんで、怒られて、経験することで育っていく。そう思っています。
西畠:棟梁と考えが共通するところがいっぱいありましたけれど、教育についてはちょっと違うかもしれません。僕はたった40人の社員の会社の社長をやっていますけど、10年やってみて思ったのは、教育はできないということ。何かをそのときに教えることはできても、絶対に忘れるんですよ。できることは2つしかないと思っていて、ひとつは舞台を与えることなんです。まさにここも「VUTAI」ですけれど、場を与え、機会を与えることだけ。学ぶやつ、勘がいいやつは勝手に育っていくんです。もうひとつは、変化を与えること。自然界では優秀な木とか強い植物が残るわけじゃないんです。最後に残る植物は変化に適応できる植物。環境の変化に対応できるかどうかは、もうその植物次第。だから、僕はどんどん舞台を与えるということを続けていこうと思っています。
西嶋:教えないという教え方、これはちょっと似ているところがあるなと思います。じゃあどうやって教えるのかというと、自分の生き様です。私はこの宮大工の仕事が好きなんです。365日仕事をしていたい。そのくらい大好きなんですね。その姿を弟子たちはみているんです。指導者に必要なのは、その部分じゃないかと思いますね。もうひとつだけ、今日はせっかく奈良県知事や宇陀市長も会場にいらっしゃってますから、ぜひ一言。そういう子どもたちを育てるためには、そういう環境、仕事が何より大切です。最高の体験をさせて、一人前になったときに、将来宇陀や奈良を盛り上げてくれるような、そんな子どもたちをみなさんと一緒に育てていただきたいですね。

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